なるほど!THE.・プチ東洋医学講座 ~鍼の作用編金子ブログ
こんにちは 豊中の玄龍堂鍼灸整骨院の金子です。
鍼灸治療に対する素朴な疑問に、「そもそも何のために鍼を刺すの?」というものがあります。
鍼灸の治療を受けたことがない方はもちろん、受けておられる方でも一度くらいは「なんで体に鍼を刺すの?」、「鍼で何をしているの?」、「鍼が体にどう作用しているの?」という鍼についての素朴な疑問を感じたことがおありなのではないかと思います。
そういう疑問に関しておそらくは、鍼は筋肉をゆるめるたり、あるいは神経を刺激しているのだ…というような西洋医学的な解釈をされているかもしれません。
今回は東洋医学的に鍼を体に刺す理由…というより、鍼を体にどう作用させているのか、あるいはどう作用しているのかということをできるだけわかりやすく解説していきたいと思います。
これが病院の注射や点滴であれば、薬を体内に注入するために針を刺すわけですからわかりやすいのですが、こと鍼灸の場合の疑問は、薬液を注入するためでもないのに、わざわざ単なる金属の鍼を体に刺して何をしているのか…ということですね。
ここで話をわかりやすくするために、仮に頻尿、尿切れが悪く、同時にのぼせと頭痛がひどい50代の女性に登場してもらって治療のシミュレーションで説明していきましょう。
まず診察に充分な時間をかけなくてはならないのですが、それは省略して、東洋医学的には腎気虚(泌尿器系の機能低下)と肝気逆(交感神経の過緊張)が原因だと診断できるということにします。
わかりやすく言うと、上半身の緊張と下半身の弱りです。こういう状態を上実下虚といいますが、現代人に一番多く、いろんな病気のベースになりやすい状態です。
治療としては、まず腎に関するツボの状態をみていかなければなりませんが、この場合、たいていは気が不足している反応を呈しているものです。
そのような弱ったツボに鍼を刺していくと手応えも何もない空虚な感覚があります。そしてツボに鍼を刺しておくと、徐々に空虚だったところに充実感がでてきます。
これは気が集ってきた際の手応えになりますが、ちょうど過疎地に人を集めて地域を活性化させるようなものです。気の不足するところに気を集めてくることが、弱っている体の働きを活性化させることにつながります。鍼が気の集合場所の目印になるのですね。
そうすることで、腎すなわち泌尿器系や下半身の力を充実させて、肝気逆という過緊張の状態をゆるめやすくします。
まずは弱っているツボに鍼をして腎の機能の弱りを改善します。
さらに肝気逆という過緊張を押さえる必要がある場合は、肝のツボの状態をみていきますが、たいていは体を緊張させる働きが過剰亢進している反応を表しています。
この場合の肝に関係するツボの状態は、多くは緊張して熱感をもっているものです。
そのようなツボに鍼を刺していくと、今度は鍼にググッと抵抗を感じます。ひどい時は刺した鍼が動かせなくなることもあります。
これは、気の停滞や余分な熱が鍼に絡み付いてくるためにおこる手応えです。
この気の停滞や余分な熱を東洋医学では邪気と総称しますが、これらを効果的に散らしていくと、鍼に対する抵抗がなくなって、鍼が動かしやすくなります。
ちなみに、邪気にもいろいろあって、つきたてのおもちに鍼を刺すようなネバネバとした抵抗を感じる場合や、べっこう飴のようにねっとり絡み付いてくる抵抗を感じる場合、硬い粘土や石に鍼を刺している感覚がある場合等、邪気の種類によって手応えにも種類があり、邪気の種類やその組み合わせによって病気や症状にも違いがでてきます。
また、刺した鍼から煙突の煙のようにモヤッとした熱感が出ることもよくあります。余分な熱が散って体外に抜けていく時に、このような反応がおこるのですね。
このような邪気を鍼で散らすことによって、滞っていた気が淀みなく流れ出し、体の生理機能は正常化していきます。
例えると、川の流れが滞って田畑を潤せない状態、あるいは排水溝等が詰まっている状態を、市の環境局がゴミや汚物を取り除いて改善してあげるようなものです。この場合の鍼は、環境局の清掃員の働きをします。流すべきものを流し、出すべきものを出すためにがんばってくれているのですね。
このように、弱ったツボに気を集めて泌尿器系の働きを活性化させると同時に、気の滞りや余分な熱を除いて上半身と下半身の緊張と弛緩のバランスをとることで、結果としてのぼせや頭痛が改善していきます。
つまり鍼というものは、気を集めたり、気の流れを阻害する邪気を取り除いたりして、生命エネルギーの流れの過不足や分布の偏りを是正するということを通じて、内臓諸器官の働きを改善させているのですね。
ここまで、鍼の作用には基本的には二通りの作用があるということを解説しました。
体の弱った働きを改善させるために、弱ったツボに気を集めてくる作用が一つと、内臓諸器官の働きの過剰亢進を抑えたり、邪気という毒素を排出させる作用の二つです。
この二通りの作用を出すために、弱った空虚なツボや、緊張したり熱をもったりしているツボに鍼を刺して気を集めたり、鍼に絡んでくる抵抗を散らしたりする訳ですね。
このように、鍼には基本的に二通りの作用があるのですが、鍼で気を集めたり散らしたりするにあたって、実は鍼の材質というのも関係したりするのです。
少しトリビア的な内容になりますが、一般的には金は気を集めやすい性質を持っています。銀はどちらかというと気を散らす方に作用しやすい性質をもちます。中でも、水晶は気を激しく動かし過ぎるため、使うのが危ないということです。
実際には、水晶はもちろん金や銀は、コストの面から使い捨ての鍼の材質としては使われません。ただし、小児鍼や鍼に敏感な方に対しては、刺ささずに皮膚表面にあてるだけの鍼を使って気の流れを調整したりしますが、そのような刺さない鍼の材質には、金や銀が使われたりします。
現在の使い捨ての鍼の材質はステンレスが一般的ですが、ステンレスは気を集める時にも散らす時にも両用で使われます。
最後にまとめると、鍼というものは本来、生命エネルギーである気を集めたり散らしたりすることを目的としています。
気を動かして内臓諸器官の働きを調整するという目的を遂行するために、古来より鍼の材質や形状、刺し方等には様々な工夫がされてきたのですね。
以上、今回は鍼の作用について解説してみましたが、どうして体に単なる金属の鍼を刺すのか、鍼で何をしているのか、鍼が体にどう作用しているかが少しはおわかりになりましたでしょうか。東洋医学のことを少しでも知っていただけたら幸いです。